コレクション:
津軽の伝統工芸品 "下川原焼土人形"
江戸時代、陸奥弘前藩九代藩主の津軽寧親(つがるやすちか)は、津軽の地に子供たちの玩具が少ないことを憂い、雪深い冬の閑暇に土人形をつくるよう命じました。これが下川原焼土人形(したかわらやきつちにんぎょう)のはじまりといわれています。代表的な土製の笛玩具"鳩笛(はとぶえ)"の他、津軽の風俗や行事を表現したさまざまな人形が現在も青森県弘前市でつくられています。
▲ 鮮やかな色彩が特徴的な下川原土人形。
作り手は元調教師
200年もの歴史をもつこの人形制作を継承しているのは、弘前市内に工房を構える阿保正志さん。現在制作を行っているのは阿保さんを含め2件のみになってしまったそうですが、銀行員、そして競走馬の調教師を経て人形師へと転身した異色の経歴を持つ阿保さんは、工房を開放して絵付け体験を行ったり、企業とのコラボ作品を手がけメディアにたびたび登場するなど、伝統を守りながらも今の時代に即したものづくりを展開し、下川原焼土人形の伝道師としてご活躍されています。その功績が讃えられ、2017年に青森県伝統工芸士にも指定されました。
全行程が手仕事
調合した粘土を石膏の型枠にはめて成型し、数時間素焼きした後に色づけして完成させる工程はすべて手作業。素朴ながらに趣深いたたずまいは、温かい手仕事の成せる技ともいえましょう。
▲ 石膏でできたさまざまな形状の型枠。美しいものを増産するためには、どれだけきれいな型枠が作れるかが重要なのだとか。
▲ 内側に粘土を詰めた型枠を組合わせてできあがったボディ。合せ目の部分からはみ出した粘土は、この時点で丁寧に除去される。
▲ 数時間窯焼きして焼き固められた素焼きのボディ。彩色しやすいよう、必要とあれば磨きをかけることも。
▲ ボディ全体を白で下塗りして乾かした後、大小さまざまな筆を巧みに使い分けながら色付けをして完成。
本当に良いものは生き残る
SNS の普及により、作品に興味を持った若い人たちが遠方から工房に訪れることも少なくないそう。そんな背景もあり近年は伝統的な作品づくりだけではなく、若い人たちにより身近に感じてもらえるよう、新しい感性を取り入れた創作活動にも余念がありません。ちなみに阿保さん自身はスマホやPCはおろか携帯電話すら使わない、自他ともに認めるアナログ派です(驚)
"どんな時代であれ、本当に良いものは必ず生き残る"を制作信条とする阿保さん。下川原焼土人形の継承と発展のため、今後ますますのご活躍に期待しています。
▲ 季節の風物詩である雛人形や干支の土人形は定番品のひとつです。
▲ 地域に根ざした歴史や行事なども積極的に制作活動に投影。こちらの土人形は城下町 弘前が誇る"ねぷた祭り"が題材に。
▲ ケースにずらっと並ぶのは、色鮮やかなユニフォームに身を包んだジョッキーたち。元調教師ならではのユーモア溢れる作品です。